2014年の11月にちょうど修士論文の追い込みのタイミングで自己免疫疾患(免疫が暴走して正常な細胞も攻撃してしまう)の難病になってしまい、治療に専念するため復学する予定で一旦、大学をやめました。

そして体調が良くなってきたこと、復学期限が最終年だったことが重なり、2018年4月に大学院へ再入学して半年限定で、大学をやめる前に書いていた修士論文を再開しました。データはすでに取っていたので、論文を書くところからです。

イギリスに住んでるので、教授にはムリを言って遠隔で修士論文を仕上げることを許可してもらいました。再入学も特例ですが、海外から遠隔でというのは初めてなんじゃないかと思います。

病気のこともそうですがいつも気にしてくれて理解のある教授で、担当教授に恵まれて良かったです。

その代わり、研究室に行って先輩にわからないことを聞いたりできないので、遠隔で論文を仕上げるため、わからないところ、特にデータ分析や統計などその道のプロに聞けるような体制を整えて、evernoteやビデオ会議ツールのzoomを主にやりとりをして進めていきました。(後ほど詳しく)

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研究内容

研究はスポーツ科学で、スポールに関するものならなんでもありなので、見るのもやるのも大好きなテニスを選択しました。

中級者と上級者それぞれのグループに分けてサーブのトスの再現性(どれだけ毎回同じようにトスをあげられるか)と、到達点の関係がどうなっているのか、この2つの関連性を分析しわかったことを実際にコーチングに活かすといったものでした。

普通ならトスとラケットの両方を見て、到達点がどうなるかというところですが、僕はトスが上手ければ到達点にも影響してるんじゃないかという仮定を作って、ラケットは無視してこの2つの関連性を調べることにしました。

結論だけいうと、基本的にはトスが上手かろうが下手だろうが上級者はラケットさばきが上手いので、トスはあんまり到達点に関係しないことがわかりました。

ただ例外があって、サーブは3試行打ってもらったんですが、サーブの種類によってトスと到達点に関係する試行もあるのではないかという結果も出ました。

意外だったのはレベルによってトスの再現性にあまり違いがなかったことです。

トスが到達点に大きな影響を及ぼす結果が出るとベストシナリオだったんですが、トスが到達点に影響するわけではないと言い切れない結果となりました。

この結果を実際にテニスのコーチングに活かすとするなら、トスをわざと同じ場所ではなく色んなところにあげてみて、到達点として同じ場所を狙えるようにする練習が効果的だと言えます。

ベストシナリオではないため、一見、当たり前のことで、正直ちょっとガッガリだったのですが、立てた仮説に対して正しい検証をして結論を出すことが大事ということを教わり、今はホッとしています。

遠隔で修士論文を書く方法

今は仕事も遠隔でやってるので、修士論文というかしこまった形式のものでも、遠隔でできそうだとは感じていましたが、実際にやれるのかどうかはまた別の話で、普段はexcel、word、パワポくらいしか使わず、dropboxやevernoteあたりになってくると「???」で、どちらかというとITが苦手な教授とも遠隔でやりきれました。

ただその場合は、色んなサービスを使いこなせる人が中継する必要があります。

今回だけでなく使えるやり方としては、普段のやりとりはITが苦手な人以外で進めます。

まずはexcel、word、パワポなどdropboxを使ってデータを見てもらい、イギリスと日本の時差は8時間あるので、ミーティングの時間を合わせるのも頻繁にはできなかったので議論する必要があるものはevernoteのチャットワークを使って進めていきます。簡単なものはメッセンジャーで連絡。

教授には簡単な現状報告、添削などをメール、excel、word、パワポでやりとり。どうしても教授と話をする必要があるとき、重要な議論をしないといけないときはzoomでやります。難しい話が多いので、zoomでの録画はマストです。録画ができることはリアルで会って話すよりも大きなメリットです。

zoomはITが苦手でも使えて、最初にリンクからとんでダウンロード&インストールさえしてしまえば、あとは送ったリンクをクリックするだけですぐにつながります。ワンクリックでの画面共有やホワイトボード機能も含め、これは便利だと言ってたのが印象的で、zoomを作った人は使う人の気持ちをトコトン追求したサービスと改めて感動です。

研究は自分ひとりではできない共同作業で、全ての要望を満たすサービスは存在しないので、レベルに合わせてサービスごとの得意な機能を把握して使い分ける、棲み分けを明確にする必要があります。

遠隔でもできることが増えた

ネットでできることは増えたとは言ってもどこまでできるのか。イギリスに住んでるので、今回の修士論文だけに限らず、どれくらいまで遠隔でやれることがあるのかがわかりました。

ネットだけでやれることは日に日に広がっていて、VRが本格的に普及したらさらにその範囲が広がりそうです。

修論ができるなら、本の出版なんかも全部遠隔で、編集者に実際に会わずともできると思います。

この半年間はひたすら人生でも1、2を争うぐらいの力で修士論文をやったので、忘れないためにもどういったことを学んだのかを残しときたいと思います。

修論で学んだこと

正直めちゃくちゃ苦戦して途中で何度も挫折しかけました。データが多すぎて、どことどこが関係してるのか、どこを見ればいいのかもわからず、なんとなくこれとこれが関係してるだろうなと思ってもバラバラな結果ばかりだったからです。

言われたことをやることしかできず、無限に作業があると感じてたときは本当にストレスフル。

最後の方に何を見ればいいのか、調べるべきかがわかり始めてから良くなっていきました。

教授もデータ分析のプロも、研究を終える頃に色んなことがわかりはじめて楽しくなってくると言ってたんですが、まさにそのとおりで、最後の方にやり方が見え、バラバラなデータがどんどんつながる体験が快感でした。

打開したポイントは、データしか見てなかったところをなにが起こってるのか全体を見ることがポイントで、明らかに分かることからやっていくことでした。今思えば当たり前の話なんですが、あまりのデータ量に圧倒されて全体像が見えてなかったんです。

・先行研究

・話のストーリー

・全体像の整理

がいかに重要がわかりました。

研究には狭義的に見てしまいがちなデータを、いかに俯瞰的に見れるかがポイントです。

途中で投げ出しそうになったのですがやめなくて良かったです。

次回への取り組み

全体を最初に見通してからやらないと、後からの修正がきかずに大変なことになります。それこそ1年以上を無駄にすることも。研究はピンポイントで仮説を立てて、解析しにいくので仮説が間違えてると全部やり直しです。

実験する前の計画でデータを絞りすぎていざ実験すると、研究内容を少し変えたりといった拡張性・柔軟性がないので、ある程度は広げて取ったほうがいいのですが、今度は広げすぎるとデータがありすぎて、何をすればいいのかわからなくなります。このバランスが難しい。俯瞰思考が欠かせません。

ビジネスとの大きな違いは、ビジネスはとりあえずスタートして改善していくのが良いと思ってるのですが、研究は最初の設計が超重要だということを実感しました。

これからの進路で今のところは博士過程に進む予定はないですが、次にまた研究をするとなったときは、

・データを絞る
・全体像を把握する
・研究ストーリー(リサーチデザイン)をしっかり作ってから始める

を意識して取り組もうと思います。

追記(2018.10)
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に2013年入学、難病を発症して一時退学などもあり、卒業するまでに5年半かかりましたが、無事に卒業しました。

特に彼末教授には僕の病気のこともとても気遣ってくださり、本当にお世話になったので、感謝です。

ありがとうございました。

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